住む人も訪れる人も、ここにいて良かったと思える、誰もが「ふるさと」と思えるまちづくりを。ふるさと納税はそんなまちを発信できる最良の制度です。
北海道倶知安町 文字 一志 町長
プロフィール
生年月日:1963年3月17日
出身地:北海道古宇郡泊村
高校まで倶知安町で過ごし、大学は北海学園北見大学に進学。その後、倶知安町職員として地元に戻り、主に観光・企画畑を歩み、福祉医療課長や総合政策課長を歴任。2019年(平成31年)1月20日、倶知安町長選挙に無所属で出馬し初当選。2023年1月再選。現在2期目となる。
日本有数のスキーリゾート「ニセコ」を擁する自然とホスピタリティあふれる町。
倶知安町は、富士山に似た姿から蝦夷富士とも呼ばれる「羊蹄山」とニセコアンヌプリを主峰とするニセコ連峰に囲まれ、清流尻別川が流れる、自然豊かな町であり、近隣のニセコ町・蘭越町とともにニセコエリアを形成しています。
羊蹄山はふるさと富士の中でも全国的にも人気ナンバーワンという評価をいただいていて、住んでいる人間にとってもふるさとの精神的なシンボルとなっており、子どもの頃からこれを見て育つ町民みんなが誇りに思っています。
そんな羊蹄山を中心とするニセコエリアには世界中から観光客だけではなく、働きにくる人やリゾート関係者を中心に多くの人が集まり、たくさんの交流人口があります。コロナ禍で一時は大きく減少しましたが、一度来た人がまたやってきたいと思っていただけるまちとなっているようで、次の冬シーズンの予約をして帰られる方は多いです。その要因となっているのは、自然の豊かさ、雪質の良さというのはもちろんですが、それ以外に人の良さ、ホスピタリティの高さというところもあるようです。今シーズンはコロナ前の約8割程度まで人が戻ってきてくれました。みなさん、来ることができるようになるのを待っていてくださったんだと心から感謝しています。
新幹線に高速道路、どんどん進化する倶知安町。
ただ、光のあるところには影も…住民の不安を取り除くのも行政の役割だと思います。
倶知安町では長い間、2次交通の脆弱さという課題がありました。そんな中、2030年度には北海道新幹線の札幌延伸 がひかえています。これにより、新幹線だと札幌からわずか25分で倶知安町に来ることが可能となります。また、高速道路も同時期に開通の予定です。現在想定されているインターチェンジの場所は新幹線の駅からも近く、また、リゾートエリアまでも車で15分程度の場所で、これらの新しい高速交通ネットワークの整備によって、訪問者は滞在時間を少しでも長くできるようになり、日帰り客も来やすくなり、宿泊客のストレスも大幅に緩和されると考えられます。
ただ、未来が明るければ明るいほど影もできます。これは避けられないことだと感じています。人には見えないものがあると勝手に想像してしまい、よからぬ心配がどんどん膨らんでくるというところがあり、住民の不安が膨れていきます。例えば、新幹線がくるという話に対して本来なら住民は大喜びすると思うんです。ただ、その過程の中で税金が高くなるんじゃないかとか、20メートルの高さの高架だとわが家が日陰になるんじゃないのかとか、音がうるさくなるんじゃないのかと様々な部分で不安材料が増えていくようです。また、たくさんの方々が町にやってくる一方で、開発が進む中、宿泊施設のために木を何本か切らなきゃいけないということが当然出てきます。そうすると、この豊かな自然の中で森や木がなくなるんじゃないだろうかという不安が生まれます。
それに対して、行政としては、住民の不安を取り除くために、様々な対応やそれを発信することが必要になります。例えば、リゾート開発についてコントロールするルールを作ろうと今年1月より景観計画を始めました。開発エリアの制限や建設物の高さ制限、施設の緑化対策に対するルールなどです。これによって開発をコントロールし、景観を守っていけるようにしていきます。
また、リゾート施設が開発されることによる固定資産税やそれを利用するために活用される旅先納税®(*1)、ふるさと納税などが町に入ってくること、それらを使って住民の方々にも恩恵のあるインフラ整備などをしていくといった情報の発信をすることによって、きちんと住民に理解してもらうといったことを継続してやり続けることが行政の大きな役割であると思います。
子ども達を育てて旅に出し、戻ってこれる環境を作る。
まさに「カムバックサーモン 倶知安 子ども版」をコツコツやっています。
町内の教育機関は高校までしかないため、大学や専門学校に進学する場合は、一時的にでも町を離れなければなりません。外に出て、様々な学びを得ることにより、視野の広い人間に成長できると思うので、それは大切なことだと思います。
倶知安町には毎年大勢の外国人の方がやってくるので、世界に目を向けた子どもを育てていきたいと考えています。そのために小学生・中学生の英語教育には非常に力を入れています。2020年度から小学3年生以上に英語教育が義務化されましたが、倶知安町では、民間の英会話教室と提携して、ネイティブな先生に学校に来てもらい、日本語禁止オールイングリッシュでの授業を行ってもらっています。この取組を始めて4~5年経ち、その子たちが大きくなってきて、意識が大きく変わってきたように感じています。元々、家の近くに外国人がいる環境なので、買い物先で気軽に話かけたりと、生活の中で外国人とコミュニケーションができるスキルが身についてきているように感じます。そんな環境の中で、グローバルな視点を身につけていき、変なコンプレックスなどを持たずに育って行ってほしいと考えています。
このような子どもたちが育って行けば、これだけ世界各国からグローバルな人材を相手にする産業がここにはあるので、やがて子どもたちが町に戻ってきても働くべき仕事はたくさんあります。人口減少対策はどこの自治体もそうだと思いますが、倶知安町でも大きな課題です。帰ってきても働く場所がなかったら帰ってこないし、人なんて増えっこないと思っています。また、新幹線の延伸によって働き方も多様化し、働く場所も増えてくる、そういった意味で子どもたちが戻ってきて働ける可能性を高める環境をコツコツと作っています。
オールシーズン型国際リゾートへ、民と官が連携して取り組む。
人口減少以外のもう1つの大きな課題は、冬と夏の交流人口の格差です。倶知安町の人口は15,000人程度ですが、冬になるとそれと同数の観光客がやってきて、町にいる人の数は倍になります。そのため、普通であれば、15,000人用のインフラを整備すればいいところを「冬のハイシーズン」に向けてその倍の30,000人向けに整備することになります。ただ、その「冬のハイシーズン」は1年の中でわずか100日程度で、残りの265日分は必要のないインフラということになります。同様に雇用についても、季節労働に頼ることになります。そのため、サービスのクオリティがなかなか向上しないという課題もあります。
今シーズンについては、水際対策緩和の時期が10月だったので、ギリギリ冬シーズンに間に合ってよかったと思う反面、スタッフの確保に苦労し、100%のオープンができない施設もありました。毎年ハイシーズンには2,000人規模で倶知安町に来てくれるワーキングホリデー制度を利用した外国人たちのVISA発行が間に合わなかったということが要因です。インフラの活用だけでなく、労働力の整備としてもオールシーズン型のまちづくりは最重要課題となります。子どもたちが帰ってきても、冬しか働けない!では、また出ていくしかなくなってしまいます。
そのため、観光入込の繁閑差解消を目的にグリーンシーズンを含む年間を通じて楽しめる観光振興に民と官の連携で取組んでいます。その1つが、昨年、スキーの町宣言50周年を契機にニセコ東急グラン・ヒラフを経営する東急不動産及びニセコHANAZONOリゾートを運営する日本ハーモニー・リゾートという町内スキー場2社それぞれと「オールシーズン型国際リゾートの形成に関する包括連携協定」を結んだことです。
また、近年は(一社)倶知安観光協会の「スカイバスニセコ」(*2)、ニセコHANAZONOリゾートの「マウンテンライツ」(*3)「HANAZONO ZIPFLIGHT」(*4)などグリーンシーズンに合わせて新しいコンテンツが導入されています。昨年も好評だったので、今年はスカイバスニセコとHANAZONO ZIPLIGHTは期間が延長される予定です。これらの新しい取組と、元々人気のあった尻別川でのラフティング、羊蹄山麓でのサイクリング、登山、ゴルフなどのアウトドアスポーツで、夏を涼しく過ごす長期滞在者も増えています。6月には三島さんの芝ざくら庭園が満開になり、ニセコクラシックという本格的なロードレースも開催されます。8月にはJAようてい農業祭やくっちゃんじゃが祭、ニセコHANAZONOヒルクライムなど、イベントも目白押しです。これら倶知安町ならではの体験をさらに拡大していきたいと思います。
ふるさと納税への取組は平成28年度から。この年、地域経済を巻き込む方針に大転換。
ふるさと納税への本格的な取組は平成28年度(2016年度)からです。リゾート開発が活発化し、インフラ整備等のための財源が必要になったためでした。当時、私も職員だったのでよく覚えています。それまではふるさと納税に対して割と地味な感じで取組んでいたのですが、この年を皮切りに大きく方針転換をしました。特産品だとか地元の魅力をもっと全国的に発信するひとつのツールにするべきじゃないかと、その後は担当者の努力もあり、急激に拡大していきました。
この制度を利用することによって地元にとっていいことも多いと思います。ふるさと納税で財源が入ってくるのはもちろんですが、町民の間でも地元にどんな魅力的なものがあるのかといった「ふるさと意識」を向上させるのに、ものすごくいい材料っていうかやり方なんだと思います。実はそれまで、地元でビジネスをやろうとしている人たちを巻き込むという発想がなかったです。儲けようなんて全然思ってなかったって言うか、地域経済のために貢献できるなんて発想がすごく弱かったんです。これをもっと民間の人たちが競い合って返礼品を開発するといった意識を持ってもらって巻き込んでいこうという方針に改めた、まさに大転換でした。
方針転換にあたって、外の方の発想も必要との考えから中間事業者を探し、経験豊富で多くのノウハウを持っていたレッドホースさんにお願いすることになりました。実際、貴社にお願いして、期待以上でした。令和3年度(2021年度)に続き、令和4年度(2022年度)も前年対比200%を超え、ついに10億円の大台を突破することができました。貴社の協力によりポータルサイトも大幅に増え、現在は24サイトになりました。今後もやれることはどんどんやっていき、寄附額20億円を目指していきます。決して無理な数字ではないと思っています。
倶知安町のふるさと納税寄附額・寄附件数(総務省発表資料よりRHC作成)
ふるさと納税が倶知安町のネームバリューを大きくアップ。返礼品として新しい"コト消費"をどんどん開発したい。
倶知安町はもともと農業の町で、主力生産物は「じゃがいも」。それはすごくおいしくて誇れるものなんですが、ただそれだけっていう部分がかなり強かったんです。ふるさと納税を本格的に取組み始めた当時の返礼品として提供していたのもこの「じゃがいも」でした。最近では生活品が人気で、トイレットペーパーやティッシュペーパーが大きく寄附を伸ばしています。リピーターも増え、紙製品だけでも前年対比200%超だったんです。
人気の返礼品:トイレットペーパーとティッシュペーパー、じゃがいも
そんな中、ニセコのリゾート開発が進み、飛躍的なスピードで魅力ある施設がどんどん出来る状況で、返礼品にもモノだけではなくこういった“コト消費”が登場し、飛躍的に伸びてきました。今後も伸びしろはかなりあるかと思っています。これらを返礼品にすることによって、「倶知安町」という名前が全国的に知られるようになったと感じています。ふるさと納税の大きな効果だと思っています。「ニセコってニセコ町だけじゃなく倶知安町もなんだ」って(笑)。
人気の返礼品:ニセコグラン・ヒラフスキー場 リフト・ゴンドラ利用券
今後はグリーンシーズンのコト消費もどんどん返礼品として登場させたいですね。宿泊や体験、長期滞在のワーケーションなんかも最適だと思っています。単に自然豊かなところを見に来るっていうよりは、ゆっくり過ごす時間であったり、1日の中でひとつでもふたつでも面白いというかここでしか体験できないちょっと贅沢なものを加えるだけで変わってくると思いますので、そういう部分をこれから充実させていたければと考えています。また、地元や外からも注目されているので、新しいビジネスをやろうとしている人たちがどんどん増えてきています。その中から新しい商品開発の可能性が増えてきていると思うので、まだまだこれからが楽しみです。
旅先納税®も令和4年度は8,000万円を超える寄附をいただきました。この町に来てくれて、この場所で寄附いただけて、その寄附が住民の暮らしや訪れていただく人の環境に役立つ、そんな旅先納税®も含めたふるさと納税という制度に対し、これほどいい制度はないと感じています。
可能性は無限大。地域の特性を活かして倶知安町にしかできないまちづくりを推進。
これだけ贅沢な町ないなと思っています。可能性も無限大で、こんな町、他にはなかなかないですよね。もちろん悩みも多いです。でも可能性がこんなにあると、活かしようによっては大きく変わってくると思っています。
ただ、先にも述べたように、光が当たれば影ができるっていうのは当然あるので、その辺をきちんと丁寧に対応していかないと、いつの間にか不安ばっかりが拡がることになるので、そこは行政の役割というか責任であると思っています。整備の仕方でも、これだけ儲かってるんだから湯水のようにお金を使うとかではなく、きちんと計画的に必要なものに充てるんだと、そしてそれを正確に伝えるっていうのが一番大事だと思います。無駄なことは絶対せず、逆に絞った中でふるさと納税でいただいた財源を丁寧に活用していくことが寄附をいただいた全国の方々や住民への責任だと感じています。それを実行するために町長になったといっても過言ではありません。町には多くの将来への期待があり、ポテンシャルは高いけれど、ごく一部のしかも地元でない人だけの中で物事が決まっていったりという部分が見え始めて、これはまずいと危機感を持っての出馬でしたから。
今後も倶知安町の特性を活かして、強みを守り世界に競おう思っています。日本国内では国際的なリゾートとして先進的に捉えられることが多いですが、姉妹都市であるサンモリッツのような海外のリゾートと比べると、景観まちづくり・サービスクオリティなどの面で「まだまだ」な状況です。そこはさらに磨きをかけていかなければなりません。また、海外だけではなくて日本の人たちや地元の人たちにも愛されるリゾート開発、リゾート運営を常に目指さないといけないことなので、地域貢献や地域の目というのをしっかりと意識した中でまちづくりを行っていきます。民と官と住民が一緒になってここで成長していける町を実現していきたい。それは羊蹄山を共有するのと同じですね。同じ思いでまちづくりを進めていきたいですね。
*1 旅先納税®
旅先納税®は、株式会社ギフティが提供するふるさと納税の新たな手段であり、旅先でのふるさと納税を実現する仕組み。株式会社ギフティの登録商標です(2020年9月商標登録済み)
*2 スカイバスニセコ
東京でも走る二階建ての屋根なしバス「スカイバス」が北海道ニセコの様々なスポットを周りながら運行。目の前いっぱいに広がるニセコの風景や、美しく雄大な羊蹄山を望みながら、一味違うニセコの観光を楽しめます。夏季限定にて運行、今年は昨年より期間を延ばして運行予定。
*3 ニセコHANAZONOリゾートの「マウンテンライツ」
大規模な光のアートインスタレーション。世界的に著名なイギリス人インスタレーション芸術家、ブルース・マンローによる日本初開催の光の屋外展示作品です。
ゴンドラに乗り、山麓に柔らかな渦を描いた光の帯が、山の斜面を登っていく様を上空から鑑賞することができる。ゴンドラ中間駅で下車し、光のアートに沿う様に散策路をのんびりと辿り、夜の森から聞こえてくる野鳥や虫の音に耳を傾けながら間近で光のアートを眺め山の麓へ。夏季限定にて開催。
*4 HANAZONO ZIPLIGHT
アジア最長、世界最大級のジップラインで、総滑走距離は2,591m。最長ジップライン「MACH3(マッハスリー)」は全長1,700mにもおよび、最高時速は110kmを超える。世界の中でも有数のスリリングな「飛行体験」を味わうことができる。夏季限定。