町の恵みの全ての源である森林を大切に守り、次代に引き継ぐ。
安心・安全が持続可能なまちづくりのために挑戦を続ける。
北海道木古内町 鈴木 慎也町長
プロフィール
生年月日:1979年4月26日
出身地:北海道函館市
大学卒業後、約10年、東京でサラリーマン生活を経験。その間、今まであたり前に思っていた地域の良さを改めて実感し、妻の出身地である木古内町にJターン移住。宿泊業の傍らふるさと納税返礼品事業者として、ふるさと納税に携わる。35歳で町議会議員に。2020年4月より現職。
町の約9割が森林。豊かな水源がまちを育む。道南のハブタウン木古内。
木古内町は、北海道の最南端渡島半島に位置する北海道では比較的温暖な地域です。津軽海峡と町の面積の89%を占める山林に囲まれていて豊かな自然と豊富な水源から、昔から農業、漁業、林業が行われ、今も続く基幹産業となっています。また、古くから道南地域の交通の要衝となっており、最近では、北海道新幹線木古内駅が本州から北海道の玄関口となり、本年3月には高規格道路の木古内インターチェンジも開通し、函館空港から1本でつながりました。また、道南いさりび鉄道もあり、北海道の観光や経済、社会活動のハブとしての役割を担っています。
天保2年(1831年)から続く豊漁・豊作を祈る「寒中みそぎ祭」は190年の歴史を誇り、毎年1月に厳寒の津軽海峡においてご神体を清める奇祭として広く知られており、道の駅の駅名にもその名を冠しています。「道の駅みぞぎの郷きこない」は本年3月には来場300万人を突破した北海道でも有数の道の駅で、北海道の道の駅満足度ランキング総合1位(北海道じゃらん調べ、2022年4月掲載)に輝いています。
寒中みそぎ祭
そんな道南の要ともなる木古内町ですが、全国の地方自治体の例に漏れず、少子高齢化による人口減少が続いており、それに伴う税収・地方交付税の減少、産業の衰退が危惧されています。人口については昭和35年(1960年)に最大13,000人であったところが、令和4年6月には3,800人と1/3以下に減少し、さらにその半数が65歳以上、非課税の高齢者が占めています。つまり私たち若い世代が今まで頑張ってこられた高齢者の方を支えていき、次代を繋いでいかないといけない状況です。そのための財源として、ふるさと納税は非常に有効だと感じており、本町としては積極的に取り組んでいます。これらの財源を生かして、次代を担う子どもたちが将来帰って来て、この町で会社を経営したり、政治家になりたいと思うようなワクワクするまちづくりに挑戦しています。
道の駅みぞぎの郷きこない
木古内の未来を担う人材づくりを。
ふるさと納税制度の財源とプロモ―ション力を生かして取り組む。
私は学校卒業後約10年間、東京でサラリーマンをしていました。その間、会う人会う人に北海道出身であることを羨ましがられました。私自身はあたり前に思っていた山と海に囲まれている恵まれていた環境に気づいておらず、一度離れたことで地域の良さを改めて実感し、同じ道南の妻の出身地であった木古内町に移住しました。函館出身ではありますが、木古内に住んで、この素晴らしい自然と豊かな水に魅入られ、ここを安住の地として未来の子どもたちに引き継いでいく役割を担うことを決心し、町長になりました。移住者の先輩として、多くの人に木古内に来ていただきたいと思っています。
先に述べました通り、本町では少子高齢化により産業の衰退が危惧されています。つまり産業の担い手が不足しているのです。その点においてもふるさと納税という制度は財源だけでなく、本町を知ってもらう、そしてファンになってもらうための有効なプロモーション手段であり、その中の何人かが、本町に訪れて、さらに本町で産業を担っていく人材になっていただければと期待しています。もちろん、すぐに実現する話ではないのですが、そんな未来を夢見ています。木古内町は移住に対しても手厚い制度を作っていますので、もっともっと積極的にアピールしていきたいと考えています。
木古内町の山林
自分たちの獲ったものに付加価値をつける。
そこには基幹産業の育成と新しい価値が生まれる。
ふるさと納税に本格的に取り組んだのは令和2年度からです。町の事業者と寄附者と町、みんなにとって利益に繋がっていると始めました。取り組み当初からレッドホースさんには力強いパートナーとして取り組んでいただいています。
当初は返礼品となる特産品も少なく種類も30品目程度(令和元年度)で、寄附額も200~400万円程度でした。しかし、私は本町には磨けば光るポテンシャルの高い商品がたくさんあると信じていました。本町自慢の特産品であるお米やはこだて和牛を中心として、現在では返礼品の種類が300品目を超えています。町内の事業者が町で実施している産業への支援に対して、町に恩返しとなるよう返礼品を提供したいと提案をいただいてきた結果です。自分たちの仕事を通じて地域のためになりたい、自分たちの仕事が地域のためになることに誇りを感じるといった住民の意識の変化を感じます。
木古内町の返礼品と公式キャラクターキーコ
北海道は日本の食糧基地と言われています。しかし、食料自給率を見てみるとカロリーベースでは全国1位ですが、生産額ベースでは4位となっています。これはつまり一次産品のまま出荷することが多く、二次、三次の加工品として出荷されていないことを表しています。加工品にすれば生産額も上がり、さらに加工場で働く人の雇用も生まれ、持続可能な産業が生まれる。その上、ふるさと納税制度というニーズを探るためのトライアルしやすい仕組みもある。自分達の獲ったものに価値を付加してより高く売ることができる、その上、大きな加工基地になれば、木古内のような小さな町でも他の町に負けない状況でやっていける、自分達でもやれる。そんな風に町内の事業者が少しずつ感じ始めています。だからこそ、今までやったことのない「塩水うに」などの加工に挑戦したり、自ら返礼品を提案いただいたりしているのです。
昨年は不漁でしたが、加工して価値を付けて売ったことで一昨年よりも生産額が上がったと聞いています。ある事業者から「今まで獲った魚を市場に納品するだけだったので、仲買人の顔しか見えていなかったけれど、今では加工しながら食べる人(寄附者)の美味しそうな顔をイメージできるようになった」という言葉を聞き、涙が出るほど嬉しい思いをしました。
令和4年度ふるさと納税の目玉返礼品「海洋熟成 みそぎの舞」。
今後も木古内ならではの返礼品を開発。
海洋熟成 みそぎの舞
令和4年度より返礼品として登場するが「海洋熟成 みそぎの舞」です。町内産米を、姉妹都市である山形県鶴岡市で醸造した純米酒「みそぎの舞」を津軽海峡で「海洋熟成」させた珍しい日本酒です。
もともと「みそぎの舞」は町内でしか手に入らない日本酒でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で観光客が本町に来ることができない状況で、何か手立てはないかと考えていたところ、海洋熟成の専門家を紹介いただいたのが今回の取り組みの始まりです。ご存知の通り、海洋熟成という技術はヨーロッパの沈没船の中から長い年月を経て上がってきたワインやウイスキーが非常にまろやかであったことから生まれた技術です。この技術によって、この町で生まれた米で作られた日本酒がどのように変わるのか、私自身の純粋な興味もあり、まずは昨年、クラウドファンディングでトライアルしてみました。試飲会でいただいたお酒は雑味がなく、香りも高く、フルーティかつまろやかで、まるで白ワインのような雰囲気を醸し出しており、和食だけでなくイタリアンやフレンチなどともマリアージュしそうな本当に飲みやすいものになりました。
この商品が今年度より返礼品として登場します。今年9月には事前申込制となっており、予約のあった分だけ、来年の「寒中みそぎ祭」の後に海底に沈め、その1年後に引き上げ、返礼品としてお送りします。ご寄附いただいてから、お手許に届くまで1年以上かかることになります。その間は町としても責任を持ってしっかりと見守らせていただき、途中経過の報告などもきちんとしていくことによって、寄附いただいた方に安心していただけるようにしていきます。もちろん、私も自ら船に乗って、皆さんの大切な返礼品を沈めて来たいと思っています。
目標は大きく、「令和10年度に寄附額100億円」
レッドホースとの取組は令和2年度からで、昨年度は寄附額が取組前の10倍になりました。
レッドホースさんには、ふるさと納税を本格的に導入した令和2年度から返礼品受付、寄附者問合せ、入金管理、返礼品配送管理、お礼状発送、事業者対応、返礼品開発などトータルでパートナーとして取り組んでいただいております。ふるさと納税に本格参入するにあたり、各社を比較した中で、『レッドホースさん』は、北海道内にも事業所を配置されていて、返礼品事業者さんとも顔の見えるお付き合いができ、身近な相談相手となり、また、積極的に仕入先交渉や返礼品の磨き上げをしてくれるところが貴社と取り組む要因となりました。また、貴社は北海道内の自治体とも多数取り組んでらっしゃるとのことから、他の自治体の成功事例なども共有、参考にさせていただいていています。
貴社と顔の見えるお付き合いをしていただいたおかげで、返礼品提供事業者はそれまでは「役場で勝手にやっていることでしょ」という雰囲気がありましたが、今では、地域のためにという思いで、熱意をもって一緒に取り組んでもらっています。
貴社からのアドバイスによって、新しい返礼品の開発や種類の拡大、バリエーションを増やしたりして、寄附者に求められる返礼品を増やしてきました。また、ふるさと納税ポータルサイトの掲載を拡大し、寄附者との接点も広げてきました。今年度(令和4年度)は約300品目の返礼品が20のふるさと納税ポータルサイトに掲載されます。これは本格的に取組む前の令和元年度と比べると返礼品数で約10倍、掲載サイト数で約20倍となり、寄附額は令和3年度で5,400万円を超え、令和元年度の10倍以上になりました。
貴社と一緒に取組む職員にとっても結果がでることがやる気につながります。また、町内の事業者にとっても自分たちの仕事が評価されるという自信にもなり、新しい販路の開拓になる。町にとっても、住民にとっても、事業者にとっても3方良しの結果だと感じています。短期間でのこの結果には本当に満足しています。
木古内町のふるさと納税寄附額・返礼品数・掲載サイト数の推移(総務省発表資料及び木古内町提供資料よりRHC作成)
ただ、これはあくまでもスタート地点。これからが本番だと考えます。まず1億円を目標に取り組みます。それでちょうど北海道内179自治体の半分くらいの順位でしょうか。その上で令和10年度には100億円を目指したい!そのくらいの目標をもって取組むことでさらに町の産業が元気になり、町を活性化することができると考えています。
失敗を恐れず新たな挑戦を続ける。
安心・安全で持続可能なまちづくりには挑戦しかない。
本町は昨年10月に北海道水産加工業界トップ企業である三印三浦水産株式会社と上磯郡漁業協同組合と三者でサーモン養殖事業に関して連携協力協定を締結しました。現在、町内で試験養殖を進めていただいています。これが実現するとトラウトサーモンの養殖基地として道南の他の自治体も巻き込んだ次世代の漁業の大きな武器となると考えています。
また、昨年12月にはアウトドアブランドとして国内外で事業を展開する株式会社モンベルと相互連携のもと、アウトドア活動等の促進により、社会が直面する課題に対応し、町内地域の活性化及び町民生活の質の向上に寄与することを目的とした包括連携協定を結びました。今後実施予定のアウトドアアクティビティ調査および整備などを契機とし、木古内町を道南地域のアウトドアに関する拠点地域にしていきたいと考えています。本町には現在、キャンプ場などのアウトドア施設がない状態です。しかし、本町には豊かな手つかずの自然と豊かな環境があります。それを生かし、さらに未来の子どもたちに繋いでいくように専門家である同社の協力をいただきながら取り組んでまいります。
失敗を恐れていては、安心・安全で持続可能なまちづくりは実現しないと考えます。もちろん、行政として人の命に係わる等失敗できないものはあります。ただ、新しいことを始めること、まちの未来につながることについての挑戦はどんどんしていくべきだと考えています。役場の職員にもどんどん挑戦するように言っています。挑戦を繰り返しながら先代から引き継いだ山と海の豊かな自然と豊富な水を守り、町内産業を成長させ、未来の子どもたちにしっかり託す、そんな使命をもって今後も取り組んでいきます。
ふるさと納税は寄附額としての目標も掲げていますが、金額よりも、ふるさと納税によって町や産業、地域に活力が生まれることが一番大切なことだと思います。ふるさと納税を財源として、移住・定住施策や、子育て支援、産業支援を実施していき、町の課題である人口減少を少しでもゆるやかにしていければと思っています。まずは魅力のある返礼品をご用意させていただいて、広くPRしていければと考えています。